弁護士・元最高裁判所判事 濱田 邦夫



第189回国会 参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会公聴会会議録第1号

平成27年9月15日(火曜日)午後1時開会

公聴人
・大阪大学大学院法学研究科教授  坂元 一哉 君
弁護士・元最高裁判所判事 濱田 邦夫 君
・政策研究大学院 大学長 白石 隆 君
・慶応義塾大学名誉教授・弁護士 小林 節 君
・名古屋大学名誉教授 松井 芳郎 君
・明治学院大学生・SEALDs 奥田 愛基 君

次に、濱田公述人にお願いをいたします。
○公述人(濱田邦夫君) 弁護士で元最高裁判所裁判官の植田邦夫でございます。
 私は、今、坂元公述人が言われた立場と反対の立場を取る者です。その理由についてこれから申し上げます。
 まず、私の生い立ちというか、ちょっと御紹介したいんですが、七十年前、私は九歳の少年でした。静岡市におりまして、戦災、戦争の惨禍というか、その状況をある程度経験しておりますし、それと駐留軍が、占領軍が、米軍が進駐をしてきて、その米軍の振る舞いというか、それも見ております。また、いわゆる戦後民主主義教育の言わば第一陣の世代ということでございます。
 その後、日本は戦争をしないということで経済的に非常に成長を遂げ、その間、私自身は弁護士として、主として海外のビジネスに携わって国際経験というものを積んでおります。最高裁では、私のような経歴の者が最高裁に入るのはちょっと異例ではございましたけれども、それなりにいろいろ貴重な経験をさせていただきました。
今回、こちらの公聴会で意見を述べさせていただくバックグラウンドというものを一応紹介させていただきました。
 安倍総理大臣がこの特別委員会で申されていることは、我が国を取り巻く安全保障環境が著しく変わっていると、そのために日米の緊密な協力が不可欠だということをおっしやっています。そのこと自体についてはいろいろ考え方があり得るので、戦後、昭和四十七年に政府見解というのは出ておりますけれども、その当時は日中国交回復、沖縄返還に続いて国交が回復したというような状況で、冷戦体制というものがありましたので、その状況と比較して、もう全然違うという認識がよろしいのかどうか疑問があるところだと思います。
 それから、その次に安倍総理がおっしやっていることは、今の子供たちや未来の子供たちへと戦争のない平和な社会を築いていくことは政府の最も重要な責務だと、平和安全法制は憲法第九条の範囲内で国民の命と平和な暮らしを守り抜くために不可欠な法制であるとおっしやっているのですが、趣旨は全く賛成でございます。
 私も四人孫がおりまして、今日ここにいるというのも、この四人の孫のみならず、その世代に自由で平和な豊かな社会を残したいという思いからでございますが、憲法九条の範囲内ではないんじやないかというのが私の意見でございます。
その根拠としては、一つ挙げられることは、我が国の最高裁判所というところは、憲法、法律、成立した法律について違憲であるという判断をした事例が非常に少ないと。ドイツとかアメリカは割合頻繁に裁判所が憲法判断をしておるわけです
けれども、日本はしていないということを海外に行きますとよく聞かれます。その理由は、日本の最高裁判所は、アメリカの慧而裁判所と同じように具体的な事例に基づいての憲法判断ということで、抽象的に法令の合憲性を判断する、いわゆる憲法裁判所とは違うということにあります。
 なぜ日本では裁判所に、司法部に憲法判断が持ち込まれないかというと、これは、今はなきというとちょっと大げさですけれども、内閣法制局というところが六十年にわたって非常に綿密に政府提案の合憲性を審査してきたと。この歴史があったがゆえに、裁判所の方はそういう判断をしないでも済んだということがございます。
 今回の法制にっいては、聞くところによると、この伝統ある内閣法制局の合憲性のチェックというものがほとんどなされていないというふうに伺っておりますが、これは、将来、司法判断にいろいろな法案が任されるというような事態にもなるのではないかという感じがします。それと、今の坂元公述人のお話を聞いていますと、大丈夫だ、これで最高裁は違憲の判断をするわけないとおっしやっていますが、私がここに出てきた一つの理由は元最高裁判所裁判官ということですけれども、これは、裁判官、私も五年間やりましたが、そのルールというか規範として、やはり現役の裁判官たちに影響を及ぼすようなことは、OBとしてはやるべきではないということでございます。
 私がこの問題について公に発言するようになったのはごく最近でございます。それは、非常に危機感がございまして、そういう裁判官を経験した者の自律性ということだけでは済まない、つまり日本の民主社会の基盤が崩れていくと、言論の自由とか報道の自由、いろいろな意味で、それから学問の自由、これは、大学人がこれだけ立ち上がって反対しているということは、日本の知的活動についての重大な脅威だというふうにお考えになっているということがございます。
 それで、本来は憲法九条の改正手続を経るべきものを内閣の閣議決定で急に変えるということは、法解釈の安定性という意味において非常に問題がある。つまり、対外的に見ても、なぜ日本の憲法解釈が安定してきたかということは、今言ったように、司法判断がありますが、それを非常にサポートするというか、内閣の法制局の活動というものがあったわけですけれども、これが一内閣の判断で変えられるということであれば、失礼ながら、この内閣が替わればまた元に戻せるよということにもなるわけです。その点は、結局は国民の審判ということになると思います。
 法理論の問題としては砂川判決とそれから昭和四十七年の政府見解というのがございますが、砂川判決にっいては、御承知のように、元最高裁判所長賞の山口繁さんが非常に明快に述べておりまして、それと、私自身もアメリカーハーバードーロースクールで勉強した身として、英米法の論理のレシオーデシデンダイという、つまり拘束力ある判決の理由と、それから、オビターデイクタムという、つまり傍論、そういうことは、日本に直接は適用がなくても、基本的には日本の最高裁判所の判決についても適用されると思っておりまして、砂川判決の具体的事業としては、駐留軍、米国の軍隊の存在が憲法に違反するかということが中心的な事案でございまして、その理由として、自衛権というものはあるという抽象的な判断、それから統治権理論ということで、軽々に司法部が立法部の、立法府の判断を覆すということは許されないということが述べられておりますけれども、個別的であろうが集団的であろうが、そういう自衛隊そのもの、元は警察予備隊と言っていたそういう存在について争われた事案ではないという意味において、これを理由とするということは非常に問題があるということでございます。
それから、昭和四十七年の政府見解につきましては、お手元に、重複になるとは思いましたけれども、お配りした資料というのがございますが、それを見ますと、カラーコピーで赤い判こが出ていますけれども、この関与した吉國長官とか真田次長、総務主幹それから参事官、そういった方々が国会でも証言しているように、このときには、海外派兵というか、そういった集団的自衛権というものそのものは政府としては認められないと、それと、内閣法制局なりその長官の意見というのはあくまで内閣を助けるための判断でございまして、そのアドバイスに基づいて歴代の内閣が、総理大臣が決定した解釈でございます。
 それで、今回私も初めて目にした資料が、そのとき防衛庁というところが自衛行動の範囲についてという見解をまとめてそれを法制局の意見を求めたということでございまして、手書きのところには防衛庁とありますが、ワープロに打ち直したところは防衛庁という記載がございませんけど、いずれにせよこれは防衛庁のものとして認められて、そのとき国会にも出されております。
 この四十七年の政府見解なるものの作成経過及びその後のその当時の国会での答弁等を考えますと、政府としては、明らかに外国による武力行使というものの対象は我が国であると、これは日本語の読み方として、普通の知的レベルの人ならば問題なくそれは最後の方を読めば、したがってというその第一判断でそこははっきりしているわけで、それを強引に外国の武力行使というのが日本に対するものに限られないんだというふうに読替えをするというのは、非常にこれは、何といいますか、法匪という言葉がございますが、つまり、法律、字義を操って法律そのもの、法文そのものの意図するところとは懸け離れたことを主張する、これはあしき例であると、こういうことでございまして、とても法律専門家の検証に堪えられないと。
私なり山口元長官が言っていることは、これは常識的なことを言っているまでで、現裁判官、現裁判所に影響を及ぼそうということじゃなくて、普通の一国民、一市民として、また法律を勉強した者として当然のことを言っているまででございますので、私は、坂元公述人のように最高裁では絶対違憲の判決が出ないというふうな楽観諭は根拠がないのではないかと思っております。
 それで、時間が限られておりますのでそろそろやめなければなりませんが……(発言する者あり)大丈夫ですか。このメリットとデメリットのところで抑止力が強化されてということですけれども、御承知のように、韓国、北朝鮮、中国その他、目本の武力強化等については非常に懸念を示しております。そういう近隣諸国の日本たたきというか、根拠がない面がかなりあるとは思います
が、それは国内的な事情からそれぞれ出てきている面が非常に強いわけですから、それに乗っかってこちらがこういう海外派兵、戦力強化というか、こういう形をしますと、それをロ実にして、それらの近隣諸国たちが自分たちの国内政治の関係で対外脅威を口実として更にそういった挑発行動なり武力強化をすると。
 つまり、悪循環になるわけで、これは今の中東で間題になっておりますところのイスラミツクステートに米国始め有志国が東になって爆撃をしてもすぐに収まらないということを見ても分かるように、このようなものは戦力で解決するものではなくて、日本はこの六十年、戦後七十年の中で培った平和国家としての技術力とか経済力とかそれから物事の調整能力、これはつまり戦力によらない形で世界の平和、世界の経済に貢献していくと、この基本的なスタンスを守る方がよほど重要なことでございまして、今回の法制が通った場合には、非常に在外で活動している、人道平和目的のために活動している人のみならず、一般の企業も非常にこれはマイナスの影響を受けるということで、決してプラスマイナスをした場合に得になるごとはないというふうに思います。
 それで、英語では政治家のことをホリデイシャンとステーツマンという二つの言い方がございまして、御承知のように、ポリティシヤンというのは、日の前にある自分や関係ある人の利益を優先すると。ステーツマンというのは、やはり国家百年の計という、自分の子供、孫子の代の社会の在り方というものを心して政治を行うと。どうか、皆様、そういうス・ダンスからステーツマンとしての判断をしていただきたいと思います。
 国際的には、今度の法制についても、その論理的整合性とかそういうことが問題にされ得るわけですから、まして、日本人の中でまだ全体が納得していないよケな状況で採決を強行するということは、日本という国の国際的信用の面からも問題があるのではないかと。
 私は、政治家の皆様には、知性と品性とそして理性を尊重していただきたいし、少なくともそれがあるような見せかけだけでもこれはやっていただきたいと。それは、皆様を選んだ国民の方にも同じことだと思います。
 そういうことで、是非この法案については慎重審議されて、悔いを末代に残すことがないようにしていただきたいと思います。ありがとうございました。
○委員長(鴻池祥肇君) ありがとうございました。


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